以前の僕は、夏と冬なら、
圧倒的に「冬」のほうが好きでした。

夏の暑さは苦手だし、アウトドアを愉しむ趣味もない僕にとって夏は早く過ぎ去ってほしい季節であり、
9月になったらいつも
「早く涼しくなってくれぇー」
なんてことを毎年考えていました。

一方の冬は・・・

身長176㎝、体重56㎏の僕には皮下脂肪というものが乏しく、寒さはそれなりにこたえるのですが、
冬の冷たくて凛とした空気には心地良さも感じていました。

外の寒さから守られた日当たりの良い部屋で、
あかねとふたり、ダラーっと過ごす休みの日は、
今思い起こしても、至福のひとときだったと思います。

昼間だったら温かいお茶を飲んで(あかねはコーヒーが好きで、僕は紅茶)、
時には、そのお茶と一緒にあかねが作ったお菓子がテーブルに並んだりして、
夜はふたりで鍋を囲んで(我が家は自称「鍋家族」というくらい、冬の夕食での「鍋率」が高かった)。

外の寒さと部屋の温もりとのコントラストは、僕にとっての「しあわせ」の象徴のひとつでした。


でも、
ここに至って、はっきりと自覚したことがあります。

それは、

「いまでは、冬よりも夏のほうが気持ちが楽だ」

ということです。

午前中でも午後のような黄ばんだ冬の陽射しに、気持ちを萎えさせるようになり、
クリスマスや年末年始といったイベントは、もはや何ら心を浮き立たせることではなくなり、
なんといってもひとりで過ごす部屋の中は、暖かくても今では「温もり」がありません。

いつしか、冬は、しあわせを象徴する季節から完全に陥落してしまいました。

夏の暑さを歓迎することは相変わらずありませんが、、
前職を辞めて一時収入が途絶えたのをきっかけに、電気代をケチってエアコンをあまり使わずにいたら、だんだんと体が慣れてきて、酷暑といわれた今年の夏も、あまりエアコンを使わずに凌ぎきれました。

暑くても食がすすむように「酢」や「生姜」を使った料理をいろいろと作ってみて、
暑い時期に美味しく食べられるレシピも覚えました。

夏が好きになったわけではありませんが、そんなに「苦」にならなくなったという実感はあります。

けど、そうしたことは僕の中で冬と夏の立場に微妙な変化が起こったことの、表面的な要因に過ぎません。

僕にこうした変化が起こった決定的な原因に気がつきました。

それは、

僕にとって、四季のうち「夏」だけが、
あかねの苦痛に満ちた表情と重ならない。

ということです。

あかねの癌は秋に発覚し、辛い闘病を続けた末、
翌年の春、あかねは安らかな世界へと昇りました。

あの年の秋から冬、そして翌年の春にかけて、
僕は絶対に見たくなかったものを目にして、絶対に聞きたくなかったことをことを聞かされました。

唯一、眩しい陽射しや濃い緑が溢れる夏の情景の中にだけは、あかねの辛そうな表情はありません。

「きっとそういうことなんだろうな・・・」

と思います。

決して、冬を毛嫌いするほどになったわけでもなく、来年から夏を待ち遠しく思うようになったわけではありません。
夏の季節でも、あかねのことを想わない日はもちろん一日だってありません。

ただ、夏に対して以前より抵抗感が薄らいだ・・・と感じたのは、
つまりそういうことだったんだな・・・。

とても腑に落ちる「気付き」でした。

そして、

もしかしたら、あかねが、
一年中辛いことを思い出させるのは哀れに想って、
夏だけは僕に残してくれたのかも。

そんなことも思ったりしました。


今日はとても冬らしい寒い日でした。
それでこんなことを考えたのかもしれません。



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プロフィール

むらさきせいじ

Author:むらさきせいじ
2011年春、妻をなくした40代です。
本当に本当にありふれた人間ですが、人生の半ばともいえる40代で世界中でいちばん大切な人を喪失したことはそれなりに特異なことだと思います。
そんな状況におかれた心情を綴っていくことで少しでも心が解放されたらと思っています。
プロフィールのサムネ画像は、妻が描いた僕の顔です。

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